Project Story

日本初の世界標準は、こうして生まれた

開発者が語るテストシステムオープン化の舞台裏

半導体業界の夢=テスタのオープン化

急速に発展するIT産業を支えている半導体。特に高機能化が著しく進んでいるSoC(システム・オン・チップ)は、今後の情報社会の発展に欠かせない重要なデバイスである。しかし一方で、加速するSoCの高機能化は半導体メーカーにとっては開発コストの増大という悩みをもたらしている。
一般にはあまり知られていないが、半導体製造プロセスにおいてテストコストはかなりの比重を占めている。加えて、基本的にテスタは測定するデバイスに応じて製造されるオーダーメイド製品だ。このため、半導体メーカーは、SoCを高機能化する度に設備投資を行い、新たなテスタを購入しなければならない。 裏を返せば、テスタがオープン化され、必要に応じて新しい機能をモジュールとして付加できるようになれば、半導体メーカーは設備投資を大幅に低減できる。オープン・アーキテクチャ・テスタは、半導体メーカーにとって、まさに夢のシステムなのである。

発端

アドバンテストがテスタのオープン化に着手しはじめたのは2001年の終わり頃のことだった。某半導体メーカーから「10年現役で使えるテスタの開発は可能か」という打診だった。これは、従来のテスタの常識を打ち破る年数だったという。T2000開発プロジェクトのリーダーはこう語る。

「もちろん、テスタ自体の耐久年数は10年以上あります。しかし、チップの高機能化が急速に進んでいるため、3年も経つと旧来のテスタでは検査ができなくなってしまう。これを解決するためには、プラットフォーム自体を10年先でも使えるような先進的な仕様にしなければならない。さらにモジュールを付け替えることによって常に新しい機能を取り込むことができるのが理想的です。それまでのテスタから考えると、まさに破格のテスタでした。オープン化の道はこうして始まったのです」

翌2002年の2月、同じ大手半導体メーカーから、テスタメーカー各社に向けて、正式に「オープン・アーキテクチャのテスタを提案して欲しい」という要請が出された。複数のテスタメーカーがこのコンペに参加。アドバンテストもプロジェクトチームを発足させ、SoCデバイス用オープン・アーキテクチャ・テスタの本格的な構想づくりと、その具体的な姿であるT2000の仕様策定に取り掛かった。

オープン化の光と影

 テスタのオープン化は半導体メーカーにとって絶大なメリットをもたらす。しかし、本音を言えば、多くのテスタメーカーはあまり乗り気ではなかった。その理由を、T2000開発チームのリーダーはこう語る。

「オープン化はテスタメーカーにとって2つの意味を持っています。一つ目は、自社製品が採用されていなかったクライアントに食い込むチャンスが生まれるということ。二つ目は、いままで密な関係を築いてきたクライアントに、他メーカー製品を採用するきっかけを与えることになりかねないということです」

さらに、オープン規格に参画するということはテスタメーカーが独自に蓄積してきた技術とノウハウをある程度開示することになる。つまり、テスタメーカーにとってオープン化は両刃の剣だったのだ。

アドバンテストの構想が採用される

 2002年5月。テスタ業界に複雑な雰囲気が漂う中、オープン・アーキテクチャ推進構想の仮選定が行われた。結果、テスタメーカー各社が持ち寄った案の中からアドバンテストの構想が選ばれ、翌々7月には正式に採用となった。さらにアドバンテストは、同時期に開催された「SEMICON West」(年に1度アメリカで開催される半導体製造装置・材料の世界最大規模の展示会)にて次世代のオープン・アーキテクチャ構想とオープン・アーキテクチャの開発・推進を行う第三者機関「STC」(Semiconductor Test Consortium)設立構想を発表。大手半導体メーカー3社がSTCへの参加を表明した。日本発の世界標準規格OPENSTARは、こうして米国の地でスタートを切ったのである。

 標準化準備の動きと平行してT2000の開発も進められた。すべての面において常識を覆す世界初のオープン・アーキテクチャ・テスタT2000の開発は困難を極めたという。

「電気系統も機械設計もできるだけシンプルでなければならなかった。将来の新しいモジュールに対応するためには、フレキシブルでありながら尚且つシンプルなプラットフォームが必要だったのです。これが難しかった」(開発チーム・リーダー)

こうして、テスタの歴史を塗り替えるオープン・アーキテクチャ・テスタの開発は進められていった。

様々な思惑を乗り越えて、STC設立へ

 T2000の開発が急ピッチで進められる傍ら、規格標準化に向けた準備作業も着々と進んでいた。
2002年12月には「SEMICON Japan」(日本で開催される半導体製造装置・材料の国際展示会)において、アドバンテストのオープン・アーキテクチャ構想を国内メーカー各社に向けて発表。翌年1月には「OPENSTAR」のスペックRev.1をリリースした。
規格の内容が具体的になるに連れてSTC設立の必要性は益々高まっていった。メーカーの枠組みを超えて規格標準化を進めるためには、どうしても第三者機関STCが不可欠だったのだ。

 しかし、当初国内メーカーの多くはSTCへの参加に消極的だった。原因はやはり、オープン化の「影」に対する恐怖であろう。二の足を踏む国内企業に対し、アドバンテストは日本発の世界標準が国内企業にとってどれだけ大きな意味を持つのかを粘り強く説得しつづけた。
やがて、某国内半導体メーカーの参加を皮切りに、多く国内半導体メーカーとテスタメーカーが参加を表明。そして同年3月、ついにオープン化を推進する組織STC(Semiconductor Test Consortium)が設立された。

T2000完成。さらにその先へ。

 2003年10月。ついにT2000が完成した。世界初のオープン・アーキテクチャ・テスタの誕生だ。当時の心境を開発チーム・リーダーはこう語る。
「正直に言うと、開発当初はオープン化についてはうまくいくかどうか半信半疑でした。モジュールやノードを付け替えられるテスタなら技術的に十分可能でしたが、オープン化となると話が違う。モジュールを自由に入れ替えられるということと、インターフェースを標準化して世の中にオープンにするということはまったく意味が異なります。社内からも、本当にうまくいくのか?という疑問の声が上がりましたね。でも、実際にT2000を完成させてみると、オープン化がにわかに現実味を帯びてきた。これならできるという手応えを感じましたね」

しかし、これはゴールではない。「テスタのオープン化」という壮大な夢から見れば、まさに初めの一歩だと言えよう。OPENSTARが、半導体産業とテスタ業界全体を巻き込む巨大な潮流となるその日まで、アドバンテストの歩みが止まることはない。

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